[:ja]【色彩の葬儀:パラレルワールド】
作:カンダタ
「お客さん、お客さんどちらまで?お客さんあきまへん、夢の中まで寝てしまっては、起きてくださいな」
「安岡さん?安岡さん起きてください、安岡さん、先日の案件の報告です」
「ああ、ああ、寝ていたか、すまない、机の上においておいてください、手があいたらみておきます、」
OLたちは安岡さんは相変わらずたそがれてるよね
とはなしている
安岡康二、四十八才、この男は生きていない、生きながら死んでいるようである
携帯が鳴る
プルルルルル
「え?今日、俺、約束してたっけ?じゃあ、でかけるよ」
会社を出た康二はタクシーをつかまえる
「吉祥寺まで」
「お客さん、うちのタクシー会社でダンボールでもらったファンタオレンジいらないですか?昔はよく販売機でありましたな、、懐かしいでっしゃろ?」
「悪い、疲れてるんだ、無駄口はききたくない」
「お客さん吉祥寺はロンロンの前でよろしいか、お客さん、お忘れものなくね、特に大切なものは知らないうちに忘れてしまうものですよ」
「さっきの運転手、なんだか妙だな、どっかであったような、そうか、どこか、死んだ親父に似てんだ、親父とは気が合わなかった」
康二は携帯のニュースに目をやる
【携帯ニュース:訃報:黄色死去】
「キイロ?なんだ?芸能人?作家?著名人か?」
「あなた、変わったわね、大学時代、夢があるアルバイトと夢がない正社員どちらがいい?、そんな話をきかせてくれたわね、もう会うのも最後ね」
康二は疲れた顔で家に帰ると、背広をソファーにかけてテレビのスイッチをつけた。バラエティーをみても康二は何も無表情。笑い方を忘れてしまったようだ。テレビの画面の上にニュース速報が入る
ピンポンパンポン
【速報:水色、緑色、遺去されました】
康二はハテナ?と小首をかしげる
康二は釈然としない顔で独り呟いて、またテレビをみた
ピンポンパンポン【速報:赤色が遺去】
康二は
「???」
「なんでテレビはモノクロ映画ばかりやってんだ?チャップリン?」
次々
速報が入る
………………………
康二は真っ暗やみの中にいた。
「いつから、いつから俺はこうなっちまったんだ、昔はなんでもできた、未来は無限に広がっていた。あの路地裏を曲がったら異世界があるんじゃないかと思っていたのに、今は毎日、同じことの繰り返し、変わったことはしたくない、色んな色が失われたようだ」
(………康二、色んな色彩があった頃を思い出してみな、一番色彩があった頃、あの幸せだった頃)
「啓太やおばあちゃん、お父さん、カブトムシ、ファンタオレンジ」
【1981年8月18日】
「康二!康二!起きなさい、啓太くんから電話だよ」
「……ん?啓太くん?おはよう」
「やっちゃん、やっちゃんのおばさんにかわってもらったけど、昨日の夕方お寺の樹に蜜を塗ってカブトムシ取りに行く約束、やっちゃんこなかったね、カブトムシいなくてスズメバチに追っかけられて、朝四時のお寺、幽霊、ヒトダマ、出て恐かったんだぞ、お前約束守れよな」
「ええ!?ヒトダマ!嘘だろ!?幽霊っているのかよ!うしろの百太郎みたいだああ、啓太ごめん、夕方の啓太軍団の集まりには行けるからさ、こんど交通事故現場に心霊写真撮りにいこうぜ」
「おやつ300円とファンタオレンジとコロコロコミックとコミックボンボンみんなで集めたからな」
「うん、じゃあ昼の3時に三角くんちであつまるのな、おやつはコアラのマーチを買っていくよ」
「グリコ、森永事件の毒入ってるかもよ、ところでおまえ、ホワイトコーラって飲んだことあるか?」
「げぇ、あれ不味いぜ、サスケコーラのほうがうまいよ」
「康二いつまで電話してんだい、おばあちゃんがカワセでマグロの刺身買ってきてくれたよ」
「かわいい、かわいい康二お前が好きなマグロの刺身買ってきたよ、炊きたてご飯でみなでたべよう、」
「おばあちゃんきょうきょう土曜日だから日本昔話やるよ、泊まっていって、おかあさん三角くんちいってくるね、」
「啓太、みんな、商店街のコーラやビールの空きビン酒屋に持っていって、小銭貰ってヨッチャンイカ買おう、」
「ところでお前、ドリフなんて観てないだろ?タケチャンマンだろ、ひょうきん族だろ、ドリフみるやつバカな、ガンプラ、グフ持ってるぜ」
「おい三角、お前ドリフとひょうきんどっちみてる?ひょうきん?エライ!ひょうきんのほうが新しいよ」
「三角くんちこどもの城な、マーチン軍団むかつくよ、」
「マーチンこのまえう〇こもらしてたぜ、佐久間必死にかばっていたけどな」
「なあ、いま何時だよ」
「もう夕方だから帰るよ」
「あ、お父さんお帰りなさい」
「康二、夏休みに行く伊藤のハトヤホテルの準備してるか?おばあちゃんもう帰るってよ」
「おばあちゃん帰らないで、草履を隠しちゃう」
「おやおや、でも帰らないとね」
「お父さんおばあちゃん帰ったら嫌だ」
「まあ、いいじゃないですか泊まっていってくださいよ」
「あ、ドリフが始まった」
【ゾンビがクルリと輪をかいた、志村!うしろー!】
「わははははは!わははははは!お腹が痛いよ!」
「康二、お前は心が健康にと俺がつけた名前だ、お前は未来がある、お前は何でもできる」
「おやすみ、お父さん、お母さん、おばあちゃん」
康二の顔は泣き濡れた寝顔だった
…………zzz
「運転手さんどこ走ってるんですか?運転手さん?あれ?運転手さんマネキン人形じゃないか?このタクシー自動運転?」
「あれ?あれは虹じゃないか?アハハハアハハハみんな生きていてくれたの?みんな帰ってきてくれたの!?アハハハアハハハ」
康二は夢をみていたようである
会社に出勤する康二。「あれ?安岡さん手に持っているのファンタオレンジじゃないですか?まだ売っているの?なんだかジュース持ってるなんて安岡さん、ギャップあるなあ」
「あ、ああ、いつもとちがう道を寄り道したら駄菓子屋があって、まだファンタ売っていたんだ、なあ、こんど飲み会誘ってくれよ、いい飲み屋探してんだ、ムードがいい店、誘いたい人がいるんだ、」
END[:]