杉並区性の多様性が尊重される地域社会を実現するための取組の推進に関する条例
今回の条例では、差別を許さない社会をつくるために差別を禁止する法律とその推進がなされます。この条例は、性的マイノリティの方が安心して杉並区で暮らせるためにこの条例が大きな影響を与えると思います。
現在性的マイノリティの方は生活の中で多くの場面で差別・偏見・困難とあっています。この状況を変えるために、この条例を活かすために、意見をお伝えいたします。
1. 骨子案(こっしあん)について
【1-1】性自認の説明について
「性自認 自己の性別についての認識をいいます」
↓
日本語の訳の問題もありますが、認識というと、自由に決められるという印象が生じてしまいますし、これは正しくはないです。自由に選べると勘違いして、トランス差別をする人がいます。性自認が変わることもありますが「明日から、男性自認になろう」と簡単に変わるようなものではないです。
「そのジェンダーに所属しているという実感や、経験をしている性別(ジェンダー)のこと。ジェンダー・アイデンティティともいう」
というような内容の方が良いように思います。
また、ジェンダー・アイデンティティ(性自認)には「男性」や「女性」の他にも、ノンバイナリーやアジェンダーなど様々なものがあります」
【補足】
性自認:自分のことをどのように感じたり、体験したり、自分のあり方
ジェンダー:社会的・文化的、政治的、心理学的の性差、性のあり方、とらえ方
この社会には、ノンバイナリーや女性や男性といった「性別」に関するさまざまな規範や理解、知識、言説があります。わたしたちは例えば挨拶一つから、教育、服装や仕事(ここでの「仕事」は、労働の対価としてお金を貰う「賃金労働」以外も含む)に至るさまざまな社会的交流を繰り返して、この「性別」というものを理解し、内面化し、またこれに基づいて、あるいは反発して、行動し、交流していくこととなります。そうして、自分が類縁性をもったり、「自分はこの性別ではない」と認識したりしていきます。自分がもっとも強く類縁性をおぼえ、またそれを意識的にせよ無意識的にせよ受け入れた性別を、「ジェンダー・アイデンティティ」と呼びます。
https://anarchistneko.wordpress.com/2022/11/24/what-is-lgbtq/
【1-2】追加してほしい言葉
トランスジェンダー:
生まれた時に割り当てられた性別と異なる性自認のある方
性別二元論:
世の中性別は二つしかないという思想。生物学的観点からでも性別はとても複雑なものです。。性別もスペクトラムであり、ジェンダーもスペクトラムでもあります。世の中は男性・女性しかいないという考え方はさまざまな存在を否定してしまう立場です。
ノンバイナリー・ジェンダークィア・xジェンダーなど:
ジェンダーアイデンティティは単に女・男ではない人
補足
様々な性別・ジェンダーがあるのに社会の中で性別二元論によって管理され、生まれた時割り当てられた性別と異なる性自認がある場合社会構造によって多くの差別にぶつかってしまいます。
2. 現状起こっている問題
【2-1】性同一性障害特例法の条件が人権侵害にあたるような厳しい条件となっている
性同一性障がい特例法:バイナリートランス(生まれた時割り当てられた性別と異なる性自認は男性・女性である)の場合は社会の中で法的に男性・女性として扱ってもらうために戸籍上に登録されている性別を変更できます。ただ、五つの条件を満たして、また性同一性障害の診断書も必要です。
- 十八歳以上であること。
- 現に婚姻をしていないこと。
- 現に未成年の子がいないこと。
- 生殖腺せんがないこと又は生殖腺の機能を永続的に欠く状態にあること。
- その身体について他の性別に係る身体の性器に係る部分に近似する外観を備えていること。
この条件は厳しすぎて、人権侵害となっているのが事実です。すべての条件はありえないと思いますが、特に手術しないと正式に性別の登録が変えられないのは身体の自律・自由に被害を与えてしまう条件です。中絶の権利と同じように自分の体は自分のもので、自分が決めるものなので、強制的に手術する・しないのは個人の体を支配することです。多くのトランスの人はこの条件を満たすことができず、戸籍上で性別を変更できない状況です。国家法はすぐ変わらないので自治体レベルで何ができるかを考えてもらいたいです。
【2-2】働くことや、学校に通う、家を借りるといった場面で差別があり、生活で困難がある
現在は生活において様々な場面で残酷な差別に逢っています。学校、職場、不動産屋、公的な機関、お店、医療機関などで日々この差別が起こっています。そしてネット上のヘイトがとてもしんどいです。
自分らしく生きることは命をかけることです。指向・性自認によってハラスメント、暴言、暴力を受ける恐れが少なくはない、自分の安全が奪われてしまった場面がたくさんあります。また毎日のミスジェンダーリング、デッドネーミング、自分の存在が否定されたり、さまざまな場面でのハラスメントによって自傷・自殺のリスクも高まってしまいます。
具体的な差別の事例
- 「あなたは男性?女性?どっち?」と質問される
- 「こちらはトランスの方に対応できない」と言われる
- 「あなたみたいな人をお断りします」と言われる
- 呼ばれたい名前を無視して、公的な資料で登録された名前で呼ばれてしまう
- 自分の性自認と合うトイレ、スペースがない。数分離れた施設の多目的トイレに行く。トイレを我慢して、膀胱炎などの病気になる。
- アウティングされる。トランスジェンダーであるとばらされてしまう。
- 人にじろじろみられてしまう
- 笑ったり、からかったりされる
- 性自認の否定されてしまう
トランスジェンダーの方の安全を守ってほしいです。差別をなくすために制度的な差別にぜひ取り組んでもらいたいです。
通称名
正式な名前が自分の性自認と違う名前となったり、自分のあり方をより適切に表現するために別の名前を選ぶ場合もあります。法的に名前を変更することに当たって裁判などが必要なのでお金と時間がかかり、多くの人にとって難しいのですが、通称名を登録することで区からの通知や他の公的な資料(の一部)に使えます。
以前に区役所の窓口で問い合わせたときに今まで銀行口座、職場などでその名前で登録できたら通称名を登録できると言われたのですが、どう考えても通称名の登録ができていないと職場、銀行などでの登録ができません。もっと簡単に住民票で通称名の登録ができるようにしてもらいたいです。そうしたら健康保険証もその名前で出すこともできるし、病院に行くハードルが少し下がると思います。
https://www.si-gichokai.jp/open/opinionDetail.jsp?id=93483
住民票
住民票から性別の欄を消したらどうでしょうか?また住民票のコピーを申請する時に、性別の欄を載せなくてもいいという選択肢がほしいです。
https://news.yahoo.co.jp/articles/76bbe52b4fce4a9789a96dad1d158ef80ad9d781
住民基本台帳法の問題
住民基本台帳法は「住民票の写し」に性別を記載するよう定めているが、性的少数者にとって性別が書かれた文書は意思に反した性自認の暴露につながる可能性があり、苦痛を感じる人がいる。そのため国は2016年12月、性別のない住民票記載事項証明書の交付は可能と通知した。
健康保険証
自治体によって国民健康保険証では性別の表記を裏のほうにつけてもらう選択肢があります。(完全に外してもいいと思いますが)
厚生労働省から2017年8月31日付けで「性同一性障害と診断された人が日常で使う『通称名』を、健康保険証の氏名欄に記載することを認める」という通知が全国に出されていたのです。
https://www.city.kita.tokyo.jp/kokuhonenkin/seibetu.html
https://www.city.osaka.lg.jp/fukushi/page/0000414302.html
https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=00tb8714&dataType=1&pageNo=1
その他の公的文書
行政の資料・申請書などから性別の欄を外すか、最低限 「その他」の選択肢もつけて、自分の性自認に合わせて自由に選べるようにしてほしい。
選挙権
性別表記のある身分証明書の提出、また投票の性別欄によって多くのトランスジェンダーの方が結果として選挙権を奪われています。
設備・災害時
学校や公的なところで誰でもトイレ、誰でも更衣室を必ず設置するもの、誰でも「男女以外」の性自認をもつ可能性があると意識してほしい。そしてもちろん自分の性自認と合わせて使いたいトイレ・更衣室が使える権利をまもってほしいです。災害時も同じ対応が必要です。
http://dp34312797.lolipop.jp/saigai
行政の窓口
行政の窓口での対応もよく性の多様性を認識して尊重してほしいです。
行政の窓口で見た目でジェンダーを判断せず、呼ばれたい名前で呼んで、代名詞を勝手に決めないでほしいです。このことを尊重しないのは差別であることをちゃんと意識して、職員の全員がきちんと研修も受ける体制を整えてもらいたいです。
医療
多くの性的マイノリティの方は病院に行くにはハードルが高いです。特にトランスジェンダー・ノンバイナリーの方は強い抵抗がある場合もあります。医療アクセスが十分整えていない状況で健康診断、必要な治療などができていないことが多くて、健康侵害になっている場合もあります。この問題について真剣に考えてほしいです。「婦人科」健康診断 子宮ガン・乳がん・妊娠・出産・中絶は「女性」が対象になるだけではない、子宮のある人の中でトランス男性、ノンバイナリーなどの方もいます。精巣がんなどは「男性」の問題だけではない、精巣のある方の中でトランス女性、ノンバイナリーの方などもいます。
学校(保育園・幼稚園も)
制服がある場合、自由にスカートやズボンが選べるようにしてほしい、生徒を男女でわけることをできるだけさけてほしい、トランスの子どもが自分の性自認と合うトイレ、更衣室が使える権利をまもってほしい、呼ばれたい名前をちゃんと尊重して使ってほしい、本当の意味の性の多様性の教育を小学校から丁寧に誰でも当事者であるSOGIEとして組んでもらいたい、また性教育においてシス、異性愛の前提ではなく、さまざまな体・性自認を持つ方との間の性的な関係、コンセント、プレジャー、エンパワーメント、セクシュアルヘルスの観点から教えてもらいたいです。教員・学校のソーシャルワーカーの研修も必ず徹底的に実施してほしいです。健康診断についても、性的マイノリティの子どもが苦痛を感じないように適切な対応が必要です。
【2-3】障害者・高齢者(ダブルマイノリティ)
福祉サービスを利用する方、障碍者・高齢者の中でもちろん性的マイノリティの方もいます。相談員、ケアマネジャーの研修も徹底的に取り組んでいただきたいのです。
介助者、グループホーム、デイケアなどでジェンダーでわけることが多い福祉サービスは、多くの性的マイノリティにとって使いづらいです。安心でサポート/ケアが受けられる体制が必要です。
【2-4】ヘイトスピーチ
お茶の水女子大学へのトランスジェンダー女性の入学を認めるというニュースをきっかけに、ネット上やリアルイベントへの押しかけなどトランスジェンダーヘイトが起こっています。
トランスジェンダーを性加害者であるというような誤った情報を流布している人がいます。トランスジェンダー・性的マイノリティの方は変態、グルーマー、性的加害者、女性の安全を脅かすという発言もヘイトです。こういった発言を、禁じる必要もあると思います。
3. 行政にやっていただきたい活動
【3-1】相談・メンタルヘルス
セクハラ・性暴力・DV相談・シェルター/ホームレスシェルターの中にもトランスジェンダーはいます。加害にあいやすいマイノリティが、安心して支援につながれる環境を作ることが不可欠です。
メンタルヘルスのサポート。差別・偏見、性・性自認に関する悩みは大きな精神的な負担になります。そのフォローとして無料カウンセリングを提供していただきたいです。
【3-2】差別の被害を受けた方の相談窓口
性的マイノリティの方が性指向・性自認による差別について相談できる場所を設置してほしい。差別が通報されたらプライバシー・秘密を厳守しながらちゃんとフォローしてほしい。(職場、学校、病院、お店、不動産屋さん、公的施設、ハローワークなど)
このような相談窓口を人種差別、障がい者差別、地域やルーツによる差別の被害者(またはその差別行為に気付いた人)のために設けてほしいです。
苦情の内容を審査するのは区の職員だけではなく、行政から独立した第三者機関(相模原人権条例のように)も設置してほしいです。
川崎の差別禁止条例のように罰則・処罰・罰金の具体的な抑止が効果的な防止になるでしょう。
【3-3】理解を深めるための広報啓発活動
人の性が複雑でLGBTだけだと単純化してしまいます。現在杉並区の性的マイノリティへの理解を深めるための啓発パンフが単純すぎて誤解を呼ぶ可能性があります。
https://www.city.suginami.tokyo.jp/_res/projects/default_project/_page_/001/078/076/ss2.pdf
「身体の性」と「心の性」という表現について
「身体の性」は必ずしも正確ではなく、生まれたときに医師や助産師等が判断し、そして法的・社会的に「割り当てられる」という捉え方がより適切です。「心の性」も同様に、ジェンダー・アイデンティティ(性自認)という概念を正確に表せておらず、言い換えとしては不適切だという指摘もあり、注意が必要です。
LGBTQIA+が示すように性のあり方は単純なものでもなく、さまざまな形、スペクトラムでもあります。啓発の資料にもっと詳しくノンバイナリー、Q+のことを解説していただきたいです。
https://lgbtq.fandom.com/ja/wiki/LGBTQ%2B_Wiki
性の多様性はすべての人のことを示しているのでそれを理解するために丁寧にSOGIEのこともちゃんと詳しく説明したほうがいいです。
https://www.city.akashi.lg.jp/seisaku/sdgs/lgbtqsogiekiso.html
性指向・性自認に対する差別は許さないというパンフ・ポスターも区の施設や公的な場で貼ったり、配布したりしてほしいです。
当事者団体などと相談しながら差別に対する取り組みと人権保護のためにガイドラインの制作を求めています。現在多くの自治体がこういったガイドラインを公開しています。
【3-4】区内のLGBTQ関連の情報・場所を増やす。また、こういった場所があることを広報する
- 区内LGBTQの当事者のためのセーフスペースを設ける
- 当事者/アライのグループのために無料で場所を提供してもらう
- LGBTQフレンドリースペースの地図作り?
- サポート団体のリスト
- 生活相談の窓口を設置する
- トランスジェンダー追悼の日/プライド週間を記念する企画
- 当事者・アライのため、理解を深めるためのイベント
4. パートナーシップ制度について
言葉がとても大事だと思いますので今回のパートナーシップ制度の説明では単純に「同性パートナーシップ」という言葉を利用していないのが大切なことだと思います。性的マイノリティの中で同性愛者、同性カップルはもちろんいらっしゃるのですが、さまざまな性指向・性自認のある方がいますので、すべての人が利用できる制度がその多様性を認めると思います。ノンバイナリー+シスジェンダーのカップル、トランスジェンダー+シスジェンダーのカップル、トランスジェンダー+トランスジェンダーのカップルなどバイセクシャル、パンセクシュアルなどのカップルもいます。
そして現在の婚姻制度では別姓が禁止されたり、国家に管理され、ジェンダー役割規範が深く、家父長制である戸籍制度に基づくものなので「異性カップル」の中で利用したくない方もいます。
どんな性別・ジェンダーでも利用できるパートナーシップ制度であればパートナーシップの届出書・証明書に性別の欄がいらない、性別欄があるとまた使いづらくなります。パートナーシップ証明書も通称名で発行することを可能してほしいです。
家族として暮らしている子どもがいるとき、その子どもも家族として証明することも求めています。
【4-1】杉並区が独自でパートナーシップ制度を実現することで
区の公的機関は責任をもって杉並区在住の性的マイノリティの方とその他のカップルのために暮らしやすい環境づくりに努めるきっかけになります。
子ども、次世代の方は地域レベルでも受けられている、守れている、将来的にいろいろな形で家族をもつことができるという希望を持つことができます。
【4-2】パートナシップの課題
ただし、パートナーシップ制度は基本的に法的な保障にならない、法的な効力はないため下記のような権利が得られないのです。
- 配偶者控除など税金控除の適用
- 共同で親権
- 在留資格
- 遺族補償
- 遺族基礎年金
- 財産分与や慰謝料請求、年金分割
法的な保障があるパートナーシップ制度を求めています。
【4-3】二人限定のこと
ポリアモリ*の方、複数人と家族というつながりを結びたい人はパートナーシップ制度が利用できません。複数人でパートナーシップ制度が使えるようにしてほしい。
*ポリアモリ: ポリアモリーとは、関係者全員の合意を得たうえで、複数の人と恋愛関係を結ぶ恋愛スタイルを指します。
【4-4】さいごに
大阪裁判の同性婚に関する判決ではパートナーシップ制度があるので同性婚を合法化することが必要ではないとされました。多くの方にとって、パートナーシップ制度の浸透によって結婚の自由(同性婚を含めて)の推進活動が力をなくしてしまい、パートナーシップ制度で終わってしまうという恐れがあります。パートナーシップ制度は一つの選択肢、一つの足掛かりになって、これから性別・性自認と関係なくてだれでも法的なパートナーになれるようにこれからも活動が必要です。
パートナーシップ・結婚を望まない、批判する人もいます。性指向・性自認に関係なく、伝統的な「家族」・家庭のあり方に対して疑いのある方もいるし、パートナーが複数人いる方などもいます。この方にとって婚姻制度・パートナーシップ制度は適切ではない、望ましくないという事実もあります。ただし、一部の人にとって望ましくないからといって、すべての人からその機会を奪うべきではないです。それから現在の法的制度だと結婚しないと二人として社会の中で暮らしていくことの保障がない限りその選択の自由が必要だと思っています。